~ 伊有協指針 ~
「伊有協」(伊賀有機農業推進協議会)は、伊賀地域で有機農業に取り組む生産者、そしてそれを支えるひとたちの集まりです。
有機農業とは、ただ農業生産に取り組むだけでなく、自然環境や地域社会に思いを至らせ、持続可能な社会のあり方を考え、生産物を手にするひとたちの健康や安全安心を切に願う、そんな農業のかたちです。 この協議会には、未来の子供たちが安心して暮らすことができる社会を作りたい、という想いを持つ仲間が集まっています。
あまり知られていませんが、伊賀は全国でも有数の有機農業の盛んな地域です。その歴史も古く、個性的な農家が数多く集まっており、この地域の有機栽培で生産される野菜やお米の売上は2億円に迫ります。 「伊賀の有機農業」は全国に誇れるブランドとして、大きな可能性を持っているのです。
「伊有協」は設立以来、伊賀の心ある人たちの取組を世の中に知ってもらうために、様々な活動を展開してきました。
さて、昨年3月に発生した未曾有の災害、東日本大震災。
現在、被災地の復興を進めるために、全国規模で、いわゆる「震災がれき」の広域処理が進められています。
三重県では、最近になってその「震災がれき」(岩手県久慈市より2000トン)の受入を表明しました。 このがれきは福島第一原発事故の影響により、一定レベルの放射性物質を含んでいるとされます。
伊賀地域では、震災がれきの受入~焼却処分施設の候補として、「伊賀南部衛生組合」のクリーンセンターが挙げられ、また、この処理に伴って発生する焼却灰の最終処分について、「伊賀市予野の民間業者」へ委託することが検討されています。
伊有協では、一連の大災害・惨事による犠牲者、今も苦しんでおられる方々の痛みを分かち合い、一日でも早い回復ができるよう、心から願っています。 そして、被災地の復興へ向けた様々な取り組みや、日常レベルで周囲環境や食品の放射能が問題になるという事態の収拾へ向け、できる限りの協力をしていきます。 未来の子供たちのため、新たな社会の形を模索していくためにも、これは避けては通れない道です。
しかし、今回の三重県による震災がれきの受け入れについては、冷静に向き合うべきいくつかの「課題」があるとわたしたちは考えています。
伊有協のメンバーには、受入候補施設周辺で有機農業に取り組む、多くの生産者がいます。 震災がれきおよび焼却灰の受入に際しては、行政や施設運営者によって、安全性確保や処理に伴うリスク管理の取り組みが行われるものと思われます。 しかし、周辺地域の農業者は、土壌や空気の汚染により、自分たちの生活そのものが脅かされるかもしれない、という強い不安を抱えています。
現時点では、行政や処理業者から、こうしたひとたちに対してまだまだ納得いく説明がなされていないのが実情です。
有機農産物の分野の特殊事情についても、よく考慮に入れて頂く必要があります。
有機農産物を購入する方には、食物の安全安心を求める志向が強い方が多くおられます。とりわけ乳幼児を抱える方々は、子供の未来について強い懸念を感じ、放射能による汚染リスクについて、一般よりもずっと厳しい目で見られています。 私たちが取引を行っている多くの有機農産物の取り扱い業者では、行政の指導基準よりも厳しい放射能検査を行うケースがほとんどです。
こうした方々に求められるものをお届けするため、有機農業に取り組む生産者は、放射能の周辺土壌や空気への漏出等について、通常の方以上にずっと気を配る必要があるのです。
具体的に懸念されるリスク例として下記を挙げます
(有機農家の立場から)
・がれきおよび焼却灰の処理/埋め立てにともなう
放射性物質の近隣への飛散・漏出
⇒ 農産物から販売許容値を超える放射性物質が検出される
⇒ 近隣住民に中長期にわたり健康被害を受ける方が出る
・伊賀地域が放射性物質を受け入れることに伴う風評被害の発生
⇒ 有機農家の契約先から契約の解除や作付量の減少、
市場価格の下落
こうしたリスクに対して、「伊有協」は以下の指針をとります。
・地域の農業者そして消費者に、深刻な影響を与える可能性のある、放射性物質を含む震災がれきおよびその焼却灰の受入に対し、強い懸念を表明します。
・状況の推移を出来る限り正確に把握するために、情報の収集に努めるとともに、そうした情報をできるだけ多くの方に共有してもらえるよう、発信していきます。
・伊賀の有機農業に将来、大きな影響が及ぶ可能性があることがらについて、十分なリスクマネジメントを行うことを関係諸機関に要請します。
・計画段階で提示されるリスク管理方針について、懸念が払拭されない場合は、すみやかな是正措置、場合によっては受入中止に向けた、提言や要望を行います。
この国のひとたちが、大災害による深い傷を乗り越え、次の時代を創りだしていくための夢と希望と勇気が皆に与えられるよう、わたしたちは互いに力を合わせながら、一歩一歩、歩いていきたいと思います。